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紫色の月光

紫色の月光

第一話「インビシブル・モンスター」

第一話「インビシブル・モンスター」




 広大な宇宙の中、民間人が住むコロニーのほかに、連邦軍の軍事コロニーが幾つか存在している。

 ここ、J3コロニーもその一つだ。
 因みに、Jは「ジャスティス」と言う意味でつけられた物である。

 無論、コロニーを襲撃しようと言うテロ行動は起きるのだが、コロニー周囲をまるで 『万里の長城』の壁の様に機動兵器や戦艦が配備されている為、そういうテロ行動が成功した例が無い。

 そんな宇宙版「万里の長城」の中に配備されている戦艦の中に、一人の男がいた。

 背は180cmを超えており、髪の毛の色は燃える様な赤。東洋系の顔立ちで、体格がいい男、連邦の青の制服を着ている。
 彼の名前はエイジ・ヤナギ。
 連邦軍少尉であり、機動兵器「ソウルサーガ」のパイロットだ。
 シャドウミラーとの戦いでの活躍で階級が昇進したばかりだ。
 彼は4ヶ月前まで戦時中行方不明となっていた友人の捜索に出ていたのだが、正式にその友人が死亡扱いになった為、ここに配属されたのである。

 だが、エイジはこのコロニーの防衛任務についてからと言うもの、これと言った仕事をしていない。
 つまり、襲撃者がいないのだ。
 平和なのは何よりなのだが、エイジは暇で暇で頭が崩壊してしまいそうだった。

(こんなに暇だったら『あいつ』の捜索続けさせろってんだよ、クソ上官!!)

 戦時中行方不明となった彼の友人は、爆発に飲み込まれて機体ごと消え去ってしまった。
 本来なら今すぐにでも飛び出して片っ端から捜索に当たるのだが、この艦を指揮しているのは、昔自分が世話になった上官だ。
 その上官が指揮をしていなければ、ソウルサーガに乗ってさっさと逃げていただろう。
 包囲網から突破できるかどうかはその時考えればいい。彼はそう考えるタイプだ。

「しっかし・・・こんな『壁』に突っ込んでくる馬鹿はいないだろうよ。別に俺一人いなくなったっていいと思うけどな」

 何とも気軽な発言である。
 だが、実際にこの『壁』を突破した事のある者はいない。他のJコロニーだってそうだ。
 しかし、それは『壁』がしっかりと機能を発揮しているからだ。
 エイジは頭では理解しているつもりだが、いざとなったらどうしても体が反応してしまうのだ。本来ならそれを止める役の友人がいるのだが、彼は別任務についている。

「だぁぁぁぁぁっ!!! 暇だ暇だ暇だ!!! 誰でもいいから突っ込んできやがれぇぇぇぇぇっ!!!」

 それはある意味、敵を歓迎する言葉であったのだが、幸いながら彼の言葉を聞いた者はいなかった。もしも、誰かが聞いていれば、間違いなく悪い印象を周囲に与えていた事だろう。

 そしてしばしの間、沈黙が流れた。

「…………やっぱそう都合よく来ないよなぁ。しかもここって連邦のお偉いさんが沢山いるコロニーだし」

 今日はこのコロニーで軍の主要メンバーを迎えての会議がある。つまり、何時もよりも警備が強化されているのである。
 狙い時ではあるが、普段よりも強化されている『壁』に突っ込んでくる馬鹿は恐らくはいないであろう。

 エイジがそう思ったときだった。


 艦内に耳を劈くようなサイレンが鳴り響いた。

 『壁』に挑戦しようとしている馬鹿がやってきたのである。
 この展開からして、エイジが呼んだような気がしないことも無いのだが、本人は全く気にもしない様子で格納庫に向かっていった。
 彼は普段は見られないが、こういうところで「プロだな」と言う認識を始めて他人に見せるのである。



 エイジはソウルサーガのコクピット内で、発進合図を待っていた。

『ヤナギ少尉。敵の数は不明だが、既に戦艦が2隻落とされている。油断するなよ』

「分かってるって!! 早いとこ出してくれよ!!」

 エイジは上官相手でも敬語を使おうとはしない。
 それでよく問題視されているが、本人は反省の態度が全く無いので向こうは半分あきらめるのだ。それを考えれば、よく少尉になれたものである。

『では、ヤナギ少尉。幸運を祈る』

 艦内の上官が言い終えたのと同時、発進OKの合図が出た。
 エイジはそれを見ると、笑みを浮かべて発進した。


「イィィィィ――――ヤッホォォォォォ―――――っ!!!!!」


 発進と同時、掛け声を上げながらエイジは久々の戦場を駆ける。

 そこで彼が先ず初めにやったことは、敵の数の確認だ。
 上官は『不明』だと言っていたが、このタイミングで狙ってきたのならかなりの数がいるに違いない。そして、連邦のパイロットと互角か、それ以上のパイロットがいるはずだ。
 そうでないと戦艦が二隻も落とされるはずが無い。

 しかし、彼の見たレーダーは、

「敵の反応が無い・・・だと?」

 レーダーに映っていたのは、次々と消えていく味方の識別を出している機体だけだ。
 つまり、味方の機体は間違いなく撃墜されている。しかも『見えない敵』によって、だ。

 だが、ステルス機能を持った敵ならば、数がわからない。
 しかし、エイジは頭で戦うタイプではない。

「オラオラァっ!! 雑魚よりもこの俺に向かってきやがれ! 俺は逃げも隠れもしねぇぞ!!」

 エイジが姿見えぬ敵に向かって叫ぶと、目の前にそのシルエットがゆっくりと現れた。
 黒い頭部、胴体、四肢が見えてきたところでエイジは目の前にある機体に見覚えがある様な気がしてきた。
 まだ全体的に影しか見えないような状態だ。全ての姿が出現するまではまだ少々時間が必要である。

 だが、黒い影は姿を完全にあらわす前にソウルサーガに襲い掛かってきた。

「へっ! 嬉しいね・・・本当にこっちに向かってきてくれたぜ!!」

 エイジはそう叫ぶと、ソウルサーガが腰に携えている鞘から焔宝剣を引き抜き、目の前に来た黒い影に向けて、残像が残りそうなスピードで下から上に切り上げた。


 黒い影はソウルサーガの攻撃を恐れずに突進してくる。まだ正確な姿が見えないため、それは幽霊のように見える。

(まさか、そのまま攻撃がすり抜けるなんて事はねぇよな………)

 エイジがそう考えたと同時、黒い影は腰から剣を抜き、ソウルサーガの焔宝剣にぶつけた。その瞬間、エイジは内心「ホッ」とした。
 斬撃の力がぶつかり合い、火花を散らす。
 瞬間、黒い影の姿が完全に見えた。

「―――――え?」

 その姿を見たエイジは言葉を失った。
 何故なら、目の前に存在する黒の装甲の正体を彼は知っているからだ。それも、誰よりも知っていると言っても過言ではないくらいに、だ。

「ヴァイサーガ!? 何で!?」

 エイジの目の前には嘗て自分が乗っていた愛機――――――ヴァイサーガ・Xが存在していた。確実にそうだと言える理由としては、ヴァイサーガの右肩に彼が書いた『フリーダム』と言う字があるからだ。

 エイジの頭は混乱してきた。
 何故こんな所にヴァイサーガが? 
 しかも嘗て自分が乗っていた機体を何故?
 何より、自分が乗っていたときはステルス装置なんてついていなかったのに!!
 いや、それ以前に―――――――

「誰が乗っている!!?」

 あの機体は1年前には自分が乗っていた。
 それなのに何でその自分の動きについて来れるのだろうか?

 本人は自覚していないが、彼は軍内でもトップクラスの接近戦スキルの持ち主だ。その代わり、射撃がまるで駄目なのだが。
 しかし、目の前のパイロットはその彼の動きについてきている―――――いや、少しずつではあるが、向こうが押し始めてきた。

 斬撃のスピードがソウルサーガを圧倒し始めた瞬間、ヴァイサーガは剣を鞘に収め、両手から爪を出した。
 ヴァイサーガの右手の爪がソウルサーガの左腕の装甲を引き裂き、そのまま一回転してから残像が残りそうなスピードでソウルサーガの頭部に回し蹴りを放った。

 蹴りをまともに受けたソウルサーガは一瞬、怯んでしまった。
 その隙を突き、ヴァイサーガはソウルサーガに向かって突進。
 左手の爪を突き出した状態で勢い良く向かってきた。
 それを見たエイジはとっさに「システムX」起動ボタンを押した。

 瞬間、ソウルサーガの間接部が一瞬光った。システムX機動の合図だ。ソウルサーガは素早く両手で脚部に隠してある真紅のレーザーブレードを抜いた。そのまま、自身もヴァイサーガに向かって突っ込む。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 エイジの叫びがコクピット内に響く。
 それと同時、ヴァイサーガの各間接部が光った。それは、システムXの発動を意味している。それと同時、ヴァイサーガの爪が青白く発光し始めた。
 いや、正確に言えばそれは、

「―――――電気!? まさか! カ――――」

 エイジが言いかけた瞬間、ヴァイサーガの一撃がソウルサーガの右腕を一瞬で引き裂いた。その一撃は正に閃光の如くのスピードで、エイジはまるで反応する事が出来なかったのだ。
 エイジは、ヴァイサーガの一撃を受けた瞬間、強烈な衝撃に襲われ、意識を失ってしまっていた。普通なら、この場で戦死しているだろう。

 しかし、ヴァイサーガは右腕を失ったソウルサーガを見ると、くるりと方向回転。そのままJ3コロニーに向かって突進していった。

 まるで、時間を気にしているかのような加速でヴァイサーガはコロニーの外壁を光爪で切り裂き、内部の突入する。




 外壁を破壊された事によって、ヴァイサーガを追おうとする者は周りには殆どいなくなっていた。内部に侵入された以上、コロニーが崩壊していくのも時間の問題だからだろう。
 しかし、ヴァイサーガが内部に突入してから数分した時、ソウルサーガが動いた。
 エイジの意識が戻ったのだ。

「くっそ………だが、俺には確かめなきゃならない事が出来た!」

 エイジが行った瞬間、ソウルサーガが破壊されたコロニーの外壁へと突進し、内部へ侵入する。
 そこで見たのは、コロニーの外壁を全面的に切り裂こうとしているヴァイサーガだ。
 今、目の前にいる黒い影は、剣を抜いていた。
 その矛先に、まるで噴水のように溢れんばかりの光が集まっていき、剣から漏れ出した電撃が周囲の建物を落雷が落ちたかのように容赦なく破壊する。

 剣が作り上げようとしているのは、巨大なレーザーブレードだった。軽くヴァイサーガ本体の何倍もの長さがあり、一振りしただけでコロニーがダンボールのように脆く切れる事だろう。

 しかし、これでエイジには確信がもてた。
 あのヴァイサーガに乗っている人物が一体誰なのか、を。

「おい! 聞こえるか、そこのヴァイサーガ!!」

 エイジは通信機能をONにしてから、何時でもコロニーを切り裂ける状態になりつつあるヴァイサーガのパイロットに向けて叫んだ。

『―――――聞こえている』

 すると、向こうからの返答が帰ってきた。
 ヴォイスチェンジャーでも使っているのか、機械の合成音の様な声で向こうのパイロットは続けた。
 顔は、モニターに映される気配が無い。

「外壁が破壊されたから手っ取り早く聞くぜ。――――――何でこんな事をする? お前に何の得があるんだ」

 その言葉が発せられた瞬間、沈黙が走った。
 しかし、ヴァイサーガは先ほどまでと同じ体勢で剣にエネルギーを溜めており、チャージが終わったらすぐにでも攻撃を仕掛けようとしている。



 沈黙を破ったのは、ヴァイサーガの方だった。
 向こうのパイロットが人外な声で言う。

『答える気はない。そして、終わりだ』

 言い終わるのと同時、巨大なレーザーが振り下ろされた。

 一振りでレーザーはコロニーの大地を破壊し、溢れ出したエネルギーはそのまま止まる事を知らずに牙をむく。
 
「グッ――――!!」

 ソウルサーガはコロニーが崩壊していく中でまるでゴミのように宇宙へと投げ出された。
 





『では、先ほど入ったニュースです。1時間ほど前、J3コロニーが何者かの襲撃により、破壊されたとの―――――』

 そのニュースを聞いた瞬間、食堂で昼食を食べていたシデン・イツキは思わず食べていた饂飩を吹き出してしまった。
 向こうの席にいる同僚の顔に思いっきりかかってしまったので、シデンは取り合えず謝って置いた。

 シデンは名前の通りの東洋系の顔立ちで、青髪と右側頭部からまるで尻尾のように垂れている金髪が印象的な連邦軍少尉である。その女性の様な顔立ちでかなり人気を集めているが、それは本人が知る事は無い事である。

 因みにエイジの友人であり、彼と最も付き合いが長い友人である。

『―――――この事件はテロリストの仕業と見られており、テロリストはステルス装置を搭載した強力な機動兵器を保有しているとの事です』

 アナウンサーはそう言うが、シデンは違う、と思っていた。

(単なるテロリストがそんなステルス機能搭載の高性能な機動兵器なんか持っているはずが無い。――――恐らく、何処か強力なバックアップがいるはずだ)

 画面を睨みつけるように見ているシデンはコーヒーミルクを手に取った。
 それを一気飲みすると、席を立ち上がる。

(無事なんでしょうね? ―――――まさかカイトに続いてエイジまで行方不明なんて事は無いと思いますけど……………)


 シデンは落ち着かない表情のまま食堂を出た。
 普段は笑みを絶やさないタイプの彼だが、今は普段の表情とは正反対だ。

 そして廊下を歩いているとき、周囲に人がいることさえも忘れて考え事に浸っている。

(まさか―――――あのエイジまでもが参加している『壁』を突破してコロニーを破壊するなんて………そんなトンデモなことをする人がいるんでしょうか?)

 エイジは自分が知る中では軍の中でもトップクラスの接近戦スキルの持ち主だ。そんな彼を退けてまでの実力の持ち主がテロリストにいるとは考えにくかったのだ。
 
(いや、待てよ…………一人可能かもしれない非常識な奴がいる。………いるけど彼はあのシャドウミラーとの戦いで戦死扱い………もしもカイトがそうだったとして何故?)

 その瞬間、シデンは右肩が何かにぶつかった事に気づいた。
 シデンが振り向いてみると、そこには腰までかかりそうな青髪のロングヘアーの少女がいた。

「イツキ少尉。―――――廊下を歩くときはなるべく考え事に集中し過ぎないでもっと周囲を警戒しましょうね?」

 彼女は笑みを浮かべていたが、その表情には明らかに怒りと呆れが入り混じった複雑そうな表情だった。

「ご、御免! 今度からは気をつけるよ………曹長」

 彼の目の前にいる少女はリーザ・ノーザンフィールド。階級は曹長だ。因みに、年齢は19歳。
 一応シデンの部下に当たるのだが、妙に強気な性格の持ち主である為、最近はどっちが上官なのか分からなくなってしまうのが最近の悩みの一つだ。

「全く………どうせJ3コロニーの事件でも考えていたんでしょう?」

「うぐっ!?」

 いきなり心を読まれてしまったシデン。明らかに焦りの表情が顔に出ている。

「少尉、本当に分かりやすいですね。これじゃあ嘘なんかつけたものじゃないでしょう?」

「いや、僕は嘘はつかないタイプだよ」

 自信を持って即答するシデン。リーザはその余りにも迷いの無さに思わずポカンとしてしまう。
 少々間を置いてから彼女は言った。

「少尉……恥ずかしくないんですか? そんな事を平気で言っちゃって」

「うん。全然平気だよ。昔、友達からにも同じことを言われた事あるけどね」

「友達って………今噂のJ3コロニーの『壁』に配属されたヤナギ少尉ですか?」

 いや、とシデンは首を横に振りつつ言った。
 
「今は死人扱いだけど、きっと何処かで生きているはずの………大事な友達だよ」

「ふ~ん…………って、名前教えてくださいよ! そこまで出てるんですから!!」

「ん? そんなに知りたい話題なのかな? まあ良いけど……彼の名前はカイト・シンヨウ。どんな人物だったかと言うと―――――」

 シデンは自分の記憶にある限りのカイトの行動と言動を重ね合わせた。
 そこから導き出された答えは、

「一言で言うなら、性格が悪かったね。後は6歳の時からずっと殺し屋人生を送っていたし」

「こ、ここここ殺し屋ぁっ!?」

「そう、殺し屋……でも、当事は確かあだ名があったね。まあ、殺し屋始める前は6歳の凶悪殺人犯として指名手配されてたらしいけど」

 それを聞いただけでシデンの友好関係に疑問を持たずにいられないリーザなのだが、ある事に気づいてシデンに聞いた。

「あ、あのー………あだ名ってどんなのだったんですか?」

「ん? ああ、確か………『ハゲタカ』って言ったっけ」

 その名前を聞いた途端、リーザの表情が曇り始めた。 



 『ハゲタカ』とは15年前、日本に現れた凶悪殺人鬼の名前である。
 その活動期間は半年と短い物であったのだが、その分手がつけられない怪物だった。

 彼を追い詰めようとした警官隊は逆に返り討ちにあってしまう程であり、『関わったら生きれない』と言う印象を強く世間に残した事もある。
 
 しかし、そんなハゲタカの名前は月日とともに人々の記憶の中から消え去っていったのだ。
 


「で、でもその『ハゲタカ』は実は今まで殺し屋をやっていた、と?」

 リーザは身を震わせながら呟くように言った。

「うん、まあ。………その後、素性を隠して軍に所属、一年前に機体ごと自爆して行方不明って事だよ」

 今にして思えば初めてカイトと会った時、よく死なずに済んだな、とシデンは思う。

 当時六歳だった彼等は出会った時点で戦闘開始だった。
 その時、カイトの動きを何とか封じて説得にかかったのが他ならぬシデンだったのだ。

 その説得が成功したからこそ彼等は友人として共に過ごして来れたのだが、もし成功しなかったら、恐らく自分はこの場所でこうしてカイトの話をする事も出来なかっただろう。

「まあ、カイト・シンヨウについてのお話はここまでにしよう。正直、まだ考え事の最中な訳だからね」

 そう言うと、シデンは自室へと帰っていった。









 夜の体育館のように広く、暗い場所に空間に4つの影があった。

 一人は紫の髪の少年で、その隣には白衣を着た金髪の青年がいた。
 そして一番左隅には腰まで届きそうな銀のロングヘアーの少女。
 最後に彼等三人に挟まれるような形で中央にいるのは肩まで伸びきった黒髪の青年である。

 黒髪の青年はその伸びた髪の毛を紐で縛りながら話し始める。

「スバル。―――――やはりヴァイサーガは俺には余り向いていない。『ダーインスレイヴ』の完成はまだか?」

 スバルと呼ばれた紫の髪の少年は答える。

「全然まだですよ。大体、まだ武装だって全部完成したわけじゃないんですから」

「ビームソード系と銃さえあればそれでいい。何とかならないか?」

「無茶言わないでくださいよ。J3コロニー戦では何とか奇襲で攻略できましたが、ダーインスレイヴはあんなステルス装置なんてついていません。――――未完成品だと次のJ2コロニー攻略作戦でやられるのがオチです。今回だってかなり危なかったんですよ!」

 紐で髪の毛を縛り終えた青年はスバルの返答を聞いてから静かに頷いた。

「しかし、完成を待っていたら何時までも……………その手があったか」

「…………? どうしたんですか? 兄さん」

 スバルは目の前でなにやら一人で勝手に納得している兄に疑問の言葉を発した。
 すると彼は自信に満ちた表情で、

「別に完成を待つ必要なんて無いんだよ。………ダーインスレイヴを今のままで良いから輸送機に詰め込む。予定通りに1ヵ月後、J2コロニーを襲撃する」






 先ほどの会話から20分が経過していた。

 広い部屋の中には黒髪の青年と白衣の青年だけが取り残されていた。
 
「しかし、まさかお前とこんな形で再会するとは思わなかったぞ」

 白衣の青年が言う。
 それに黒髪の青年は笑みを浮かべながら答えた。

「世の中ってのは何があるのかわかんねぇ。それは時には幸福を呼び、時には不幸を呼ぶ」

「お前はもう少し素直に『ああ、そうだな』とか言った方がいいかと思うぞ」

「嫌だ」

 黒髪の青年は即答した。
 それを聞いた白衣の青年は思わず呆れた表情になる。

「……と、まあそれは置いといて、だ。本当に良いのか? このまま行くとエイジとシデンの二人と『殺し合い』をするかもしれないんだぞ?」

「もうエイジとは本気で戦ったさ。―――――もう、止められない」

「……………念のために聞いておくぞ。お前はちゃんと生きて帰る気があるんだろうな? ―――――カイト」

「―――――俺は勝つために戦う。………生きるか死ぬかは論外さ」

 そう言いながら黒髪の青年、カイトは部屋を出て行った。
 暗い部屋には白衣を着た青年だけが取り残されている。

「………生きている者が勝利者なんじゃないのか? カイト」

 青年は呟くように言ったが、その言葉に対するカイトの返答は無かった。






第二話「激戦の予感」





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